木造一戸建て改修工事 その1 改修工事の概略

木造の1戸建てを全面改修した事例をご紹介します。弊事務所では依頼主様(建物所有者様)との契約により、設計者および改修工事業者として関わりました。
1. 建物についての要望を伺う
依頼主様(建物所有者様)より、東京の郊外にある昭和50年築の木造1戸建てについて、相談をいただいたところから、このプロジェクトは始まりました。この建物は、空室のまま10年程度経過してしまったとのことでした。 建物所有者様は、建物の傷んだところを修繕し、再び住める状態にしたいと希望されていました。
日本では、築30年を超えた1戸建て住宅では、建物の建て替えを検討される所有者様も多くいらっしゃいます。(国土交通省の推計によれば、日本の住宅が建てられてから滅失するまでの期間は30年程度と推計されているそうです。) 筆者は建物改修による長寿命化を得意分野としているものの、建て替え案との比較も必要と考え、この建物が建っている敷地について調べたり、役所に問い合わせを行いました。最終的には、改修により建物を再生する案が採用されることとなりました。
2. 建物調査を行う
建物改修計画について検討するため、建物が建てられた当時の図面を所有者様よりお借りして複写し、コンピューターで建物の平面図のデータを作成しました。あわせて、現地の状況調査を行いました。
調査の要点の一例としては、以下の項目が挙げられます。
• 構造体はそのまま使えるか、交換または耐震補強が必要か
• 排水設備の概要、排水設備は既存のものを使えるか
• 給水管、ガス管は既存のものを使えるか、交換が必要か
• 屋根・外壁等の防水状況
• 電気設備について、どの程度改修が必要か
• 住宅の内装について、どの程度改修が必要か
・構造体については、柱、1階天井裏と小屋裏、床下、コンクリート基礎を現地にて確認しました。また、調査結果を耐震診断ソフトに入力して、耐震性能の評価を行いました。その結果、耐震性能が現行基準に比べて不足しており、補強が望ましいという評価を得ました。
・排水設備については、下水道が設けられていない地域のため、既存の浄化槽設備を利用できるかの調査が必要でした。以前にこの建物の浄化槽の法定点検、維持管理を行っていた会社を見つけ出すことができ、この会社の協力を得て 各設備の排水テストを行ったところ、トイレ系統、キッチン系統の排水には問題はなく、屋外の設備は利用可能と分かりました。一方で、浴槽からの排水はできない状態でした。(後で分かったのですが、排水管が破損し、排水管の中に土が詰まって流れなくなっていました。)
・給水管については、外部は交換された様子でしたが、屋内の配管は築年数からみて鋼管であることが予想され、耐用年数を過ぎていると 考えられたので、メーター以降の全範囲を交換するべきであると考えました。
・ガス管については、後述する外壁の交換作業に伴って、全範囲を交換するべきであると考えました。
・外壁は木製で、傷みが進んでしまっており、ところどころめくれたり、破損した状態だったため、全範囲を交換するべきであると考えました。
・屋根については、1階部分の屋根は金属屋根でしたが傷みが進んでおり、雨漏りもみられたため、全範囲を交換するべきであると考えました。 また、後に足場を掛けた時点で分かったことですが、2階の瓦屋根も、浮きがみられ、大きい地震が来れば落下するおそれのある状態でした。
・電気設備については、電気の種類と容量が「単相2線」「30アンペア」というタイプでした。 この住宅は3つの個室とリビングダイニングルームをもつお宅なので、この状態では電気を使う上で制約が大きく、不便であることが分かりました。 それに加えて、築年数からみて、電気配線の交換を行っておくほうがより安全であると考えました。老朽化した電気配線が火災の原因となる場合があり、電気配線の交換は、大掛かりな工事を行う際に行っておくべきものであるからです。
・住宅の内装については、浴室の入口に面する廊下の床鳴りが著しいこと、1階の和室の中央付近が陥没していることなど、何か所かで床下地の不具合を確認できました。
3. 改修工事の計画を立案する
改修工事内容の計画にあたっては、施主様の要望と調査結果に基づき、以下の内容を実現することを考えました。
(1) 耐震性を高め、大地震の際になるべく倒壊を免れるようにし、あるいは倒壊までの時間を少しでも長引かせ、 居住者が避難するための時間を稼ぎ、人命を守る。
(2) また、建物の構造体に傷みがあった場合には、必要箇所を交換する。
(3) 不具合のある排水管を改修して、使えるようにする。
(4) 給水管、ガス管はメーター以降の全範囲を新規品に交換し、建物の寿命を少なくとも40年程度は延長させる。
(5) 屋根・外壁の仕上げは新規品に交換し、風雨から構造体や内装、居住者を守り、建物の寿命を少なくとも40年程度は延長させる。
(6) 電気設備は新規品に交換する。また、電気容量を、現状の単相2線式30アンペアから、単相3線式60アンペア程度まで使えるように、電気幹線を改修する。
(7) 住宅の内装について、キッチン・浴室・トイレの位置は従前のままとするが、浴室の脱衣場が玄関から見えにくいようにするなど、使い勝手を改善する。
(8) 階段の勾配が非常に急であるため、勾配を緩くする形で改修を行う。
(9) 現状は断熱材が設置されていないが、環境負荷の低減、光熱費の削減、居住者の安全を確保するため、断熱性を高める。 (なお、予算の制約もあるため、建物全体ではなく、1階の主要部分を、断熱工事の対象とする。)
以上の方針に沿って図面・仕様書・見積書を作成し、予算調整を経て、施主様より改修工事内容案へのご承認を頂きました。
4. 工程の考え方
改修工事の工程を組むにあたっては、次のような条件を考慮しました。
・屋根工事は9月後半以降に行う。(それにより、熱中症の危険を軽減する。)
・1階と2階では2階のほうが小さいので、足場を2回に分けて設置する。 まず1階の屋根までの足場を架け、1階の屋根を改修する。その後、2階の屋根の高さまで足場を架ける。
・断熱材の吹付を行う時期は、1階の新しい外壁下地ができ、新しいサッシが取り付けられた段階とする。
・室内側の耐震壁の設置は、断熱材の吹付前に行うところと、断熱材の吹き付け後に行うところに分かれる。
・階段の裏側に断熱材を吹き付ける計画のため、階段の設置は断熱材の吹き付け前に行う。
・大工さんが作業を開始するのは9月1日と決まりましたが、その前に既存柱・土台等の不良箇所有無を把握したいので 内装解体工事を、8月17日より開始する。
このような考え方に基づき工事を進めることとなりました。 最終的には、8月17日から翌3月1日までの、約6.5カ月の工事期間となりました。
5. 改修工事の完成
このようにして、既存の構造体と一部の内装を再使用しながら、再び居心地の良い住宅を作り出すことができました。また、建物の長寿命化と、住む人の安全性、環境負荷の低減を実現することができました。
以下の写真は、上側が改修前の状態、下側が改修後の状態を示します。
以下のリンク先に、設計や施工の考え方、工事の詳しい様子を載せておりますので、ぜひご覧ください。