テラ・マーテル千石 改修工事
鉄筋コンクリート造の賃貸マンションを一棟改修した事例をご紹介します。弊事務所では依頼主様(建物所有者様)との契約により、設計監理者として関わりました。
不動産事業企画・入居者募集は株式会社コカイキカク、改修工事は株式会社興建社にて行いました。
1. 建物についての相談
2. 簡易建物調査
建物修繕や、入居者募集のための魅力付けなどに必要な工事費用の概算金額を把握するため、建物の現状についての簡易調査を行いました。
調査の要点の一例としては
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構造形式(鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造など)
- 構造体はそのまま使えるか、耐震補強が必要か
- 排水管の経路、排水管は既存のものを使えるか
- 給水管、ガス管は既存のものを使えるか、交換が必要か
- 屋根・屋上・外壁・バルコニー等の防水状況
- 鉄部の腐食有無
- 電気設備について、どの程度改修が必要か
- 住宅の間取りや設備について、そのまま使える部分はあるか、どの程度改修が必要か
などが挙げられます。
この時点で、依頼主様と打合せのうえ、建物が建てられた当時の図面をお借りして複写し、コンピューターで建物の平面図のデータを作成しました。
(なお、このデータ作成は有償にて行っております。延床面積400㎡未満の共同住宅の場合、税別で10万円程度のイメージです。)
3. 基本計画(3〜6か月程度)
基本計画に関する業務委託契約書の取り交わし後に、弊事務所では、提携している不動産会社、株式会社コカイキカクとのプロジェクトチームを組み、改修工事の基本計画作成と、事業性の検証を行いました。
商品企画と市場調査
今回の事例では、20~30㎡台の2K(居室2室にキッチンスペースがある間取り)に、3点式ユニットバス(トイレ、洗面台、浴槽とシャワーが、1つのユニットになっているもの)、バルコニーに洗濯機置き場、という住戸によって、建物が構成されていました。
これに対し、提携している不動産会社にて、建物の立地特性を調べ、建物の現在の間取りを生かすほうが良いのか、間取りや住戸の大きさを見直すことにより価値が高まるのかなど、改修工事を行って実現する建物の、賃貸住宅としての商品性を検討しました。
その結果、
- 建物の立地特性について、当該地域は、最寄り駅からの距離は10分程度である。高台となっており、水害のおそれがなく、緑が多く、閑静な住宅地である。都心へのアクセスと買い物などの利便性も良好である。ただし単身者は、駅から10分よりも近い立地を好むので、2人以上の世帯に最も人気の高い立地と思われる。という評価が得られました。
- 需要と供給のバランスについて、60㎡を超える、家族向け賃貸住宅への需要が高いが、新築される住宅は、20㎡台のワンルームが多く、60㎡を超える賃貸住宅の供給は限られる。
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60㎡を超える賃貸住宅についてみると、幹線道路沿いの中高層マンションおよび、木造のアパートは供給されているが、鉄筋コンクリートの低層マンションで、幹線道路沿いでない静かな住環境にある物件は供給されていない。
など、当該地域における需要と供給のバランスへの評価が得られました。
この調査結果をもとに、プロジェクトチームでは、20~30㎡台の2K の間取りの仕切りを取り払ってつなげることで、60㎡程度以上の住宅として作り変えることが、最も高い賃料収入を得ることができ、改修工事を行って建物の魅力を高める事業について、事業性を十分に見込めるのでは、との仮説をたて、その旨を依頼主様へ報告いたしました。
そのほかにも、シェアハウスを一部に導入する案、個人商店を一部に導入する案など、複数の案を立案して比較検討した結果、60㎡程度以上の住宅を中心に商品企画を進める案を採用することとなりました。
大まかな計画案の作成と概算見積もり取得
商品企画作業のなかで立てた仮説をもとに、60㎡程度以上の住宅を中心に作り変える場合の間取りを作成し、併せて、簡易調査で明らかになった内容から工事内容案を作成し、それをもとに、施工会社数社から協力を得て概算見積もりを取得しました。
事業性の検証
作成した間取りをもとに、提携不動産会社にて、新規に入居者募集を行う際の賃料を設定しました。それとともに、概算見積もり結果を反映し、改修工事にかかる費用や諸経費の合計を試算した、事業性の検証表を作成しました。
こちらをもとに、依頼主様にて、事業化の意思決定を頂くことができました。
4. 設計(3か月程度)
建築設計監理委託契約締結後、実際に工事を行うための、より詳細な現状調査と耐震性の評価、遵法性の評価、改修工事内容案作成を行いました。
現状調査は、主に建物が法律を守って建てられているか(遵法性)の調査、耐震性に問題がないかの調査、排水設備がどこまで既存利用に適するかの調査を中心に行いました。雨漏りの原因調査などは、工事着手後に、足場を掛けてから行うため、この段階ではまだ行いませんでした。
改修工事内容案作成にあたっては、前の段階で行った、商品企画作業のなかで立てた仮説と大まかな計画案をもとに、より詳細な図面を作成しました。
また、採用する内外装の建材や設備などの仕様を、月に2回程度の打ち合わせを繰り返しながら決めていきました。
建物の外観や室内の完成予想イメージは、コンピューターグラフィックスにて確認いただきました。
5. 工事見積・見積調整・工事契約(3〜6か月程度)
作成した改修工事内容案をもとに、施工会社様に見積を依頼し、提出を受けた見積書をもとに、事業予算に合うように工事内容を調整しました。
工事内容と工事金額について、依頼主様の承認を得られた後、依頼主様と施工会社様にて、工事請負契約を締結いただきました。
6. 着工・工事監理・竣工(6〜8か月程度)
工事開始後は、施工を行うための承認図や施工図の確認、建材サンプルや色見本など、依頼主様への補足説明、工事の進捗に応じた現地確認、建物の性能の検査、図面との照合による検査を行い、工事請負契約内容どおりに工事が行われたことを確認しました。
7. 賃借人募集、運用開始
提携している不動産会社にて、入居者募集を行い、竣工後短期間のうちに、全戸満室となりました。
この事例では、一部お好みの場所に棚をつけたり、工事中の早い段階で成約された方については仕上げや金物を変えられるという「自由設計」方式を採用し、入居された方に喜んでいただくことができました。