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木造一戸建て改修工事 その3 断熱性能を高める

この記事では、当事務所で設計施工を行った木造一戸建て改修工事での、断熱性能を高める工事内容についてご紹介いたします。

工事を行ったお宅は、南向きで日当たりがよい配置となっていましたが、いわゆる断熱材は設置されていませんでした。また、窓はアルミサッシで、壁や床の下地についても、気密を考慮した施工はされておらず、気密性能も計測不可能と思われる状態でした。(これは昭和50年築の建物としては、一般的な傾向ではないかと思われます。)

今回、工事を行うにあたっては、外壁下地や床下地、仕上げを一新する方針となったため、この機会に断熱材も追加することが望ましいと考えました。そこで、施主様へ断熱工事についてもご提案し、承認を頂くことができました。(なお、予算の制約もあるため、建物全体ではなく、1階の主要部分を、断熱工事の対象としました。)

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ところで、住宅の断熱性を高める際、私達は居住者が過ごす空間を囲む、床下または基礎、外壁、屋根または天井を、熱を伝えにくい材料でまんべんなくくるむ方法をとります。これは、人の着衣に例えると、雪山を歩くのに、羽毛入りのダウンジャケットを着るようなものです。

もう一点必要なものは、風を通さない素材で、居住者が過ごす空間をくるむことです。 雪山を歩くのに、休憩中じっとしていると、強風下では体が冷えてきます。これは、身体が体温を一定に保とうとするのに、暖かい空気を風がどんどん奪っていくからです。 そのため、雪山で強風下を歩くときは、身体を冷やさないよう、ダウンジャケットの上に、風を通さない素材の服を着る必要がありますが、 住宅の断熱でも、これと同じことが必要になります。これを建築用語では「気密性能を高める」と呼んでいます。

鉄筋コンクリート造のマンションなどでは、工法上、コンクリートを打設してサッシを設置すると、風を通す隙間がほとんどない空間が出来上がります。

 

一方、日本の伝統的な工法の木造住宅では、木材をフレーム上に組み、あとから板状の材料を取付けて面をつくるため、隙間が多い構造になっています。 そのため、隙間を埋める工法や、場合により細かい作業が必要になってきます。

今回の工事では、まず断熱範囲を決め、断熱の工法と仕様を決めてエネルギー消費量の計算を行い、断熱工事内容を決定しました。 採用した工法としては、外壁と1階の天井にはウレタン系断熱材を吹き付ける工法、床下にはフェノールフォームという成形板を設置していく方法をとりました。 外壁のウレタンフォームは厚み8cm、1階の天井のウレタンフォームは厚み20cm、床下のフェノールフォームは厚み6cmとしました。

窓は内窓を設置して、外部側にはアルミサッシ(ペアガラス仕様)、室内側には樹脂サッシ(同じくペアガラス仕様)を設置し、その間に空気層を確保する方式としました。

この4枚の写真は、リフォームしたキッチンの正面で、内窓を少し開けた状態と、閉めた状態での表面温度の違いを表しています。外側のアルミサッシは熱が伝わりやすいため、アルミサッシの室内側の表面温度は外気温とほぼ同じになりますが、(一番上の写真で、窓の部分が少し青くなっており、温度が低いことを示しています、)アルミサッシ~樹脂製内窓間の空気層や樹脂製内窓自体は熱が伝わりにくいため、室内では暖かい空気を逃がさずに保つことができます。

断熱計算によると、この住宅(断熱範囲のみ)の、暖房と冷房にかかる単位床面積あたりの1年間のエネルギー量(いわゆる年間冷暖房負荷)は、

室温を20度以上に保つための年間暖房負荷は76.38 kwh/㎡、
室温を27度以下に保つための年間冷房負荷は40.00 kwh/㎡ 

と算出されました。エネルギーの単位「ギガジュール」換算では、暖房負荷が10.85GJ、冷房負荷が5.68GJとなりました。

ギガジュールではイメージがつかみにくいと思いますので、灯油のイメージで換算してみます。暖房にかかる1年間のエネルギー量を灯油に換算しますと、6.7リットル/床面積1平方メートルあたり となりました。これは、断熱範囲内の室温を暖房時に20度以上に保ち、冬季に休まず毎日24時間、暖房をつけっぱなしにする想定での計算に基づいています。(20度は、快適かつ健康に問題のない室温です。) 今回の事例では、断熱範囲の床面積は43.889平方メートルなので、断熱範囲全体での暖房にかかるエネルギーは、計算上、灯油換算値で296リットル分となります。(東京での2021年3月1日現在の灯油相場で換算すると、これは金額にして27,800円となります。)

日本で一般的に使われている外皮平均熱貫流率UA値という評価指標で比較しますと、この住宅は0.366という値となります。一方、それに対して東京都での推奨値は0.87となっています。(これは、残念ながら望ましい断熱性能とはいえない数値ですが、比較のためにここに挙げております。)UA値は、数値が小さいほど性能が良いことを示し、この住宅が、東京都の2021年3月1日現在の推奨基準と比べて2.3倍以上、良い断熱性能であることがわかります。

また、先ほど触れました「風を通さない素材の服」にあたる気密性能は、この住宅では実測により、2.0(隙間の面積平方cm/床面積1平方メートルあたり)というを実現しました。これは木造住宅の改修工事で実現した数値としては、優良な成績といえる数値です。

上の写真は、竣工時の気密測定を行っている様子です。気密測定は、株式会社サーモアドベンチャー様に実施頂きました。

実際に、工事が完了したこの住宅で、電気式温風ヒーターやオイルヒーターで部屋を暖めてみると、部屋が温まりやすく、室内の温度差もそれほど大きくなく、 窓の近くで冷気を感じることもありません。

このように、可能な限り断熱性能と気密性能を高めることによって、環境負荷の低減、光熱費の削減、寒さによる住まい手の健康上のトラブル防止に寄与することができました。

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